銀魂高校寮の一角に、その部屋はあった。
廊下の壁伝いに向かい合って並ぶ窓とドア。
伸びた日照時間は、けれど時計が9時を回ろうとする頃には既に空の主役を替えていた。
「ただいまヨー」
コンビニ袋の持った腕を軽く持ち上げて帰宅の挨拶をする神楽に、答(いら)えはがたついた窓枠に取り付けた風鈴のみだった。
(淡い桃色のドットの入ったそれは、そよと色違いのお揃いでお気に入りだ)
スリッパなど履きもせずに裸足のままペタペタと短い廊下を渡りきり、目的地。
そこには理事長の計らいで夏休みの期間だけ出入りの可能になっている、大学生の兄がローテーブルにだらしなく身を預けていた。
つけっぱなしのテレビを観ているわけでもなく、散らかった漫画を読んでいるわけでもなく、ただ怠惰を貪る目の前の男は「腹減ったー」と、おかえりよりも先に報告してくる。
机上には数本の空き缶とスナックの袋、すぐ近くに設けられた台所には食べ終わった茶碗が重なって水に浸けられていた。
宿題をするという名目で、朝から沖田家へお邪魔し、挙句夕飯にはミツバの手料理をご馳走になってきた神楽には、兄が何時作っていった夕飯を食べたかなど知る由もしない。
寧ろ、それを昼に食べたなどと言い出さない限り、神楽にとっては些かどうでもいいことであった。
「・・・私、多めに作ったよネ?」
「そうだね、無い材料を駆使して」
「それは兄ちゃんがバイト代を入れてくれないからヨー。働けクソ兄貴」
神楽は大きな溜息をつくと、兄の向かいに腰を下ろした。
今まで腕に顔を埋めていた兄が不意に首を上げて視線を絡ませる。
同じ色をしたそれは、先程までの窺わせていた様子の割には、思っていたよりも随分と冴えていた。
いつも笑みを浮かべている表情は今目の前には無く、口は真一文字とはいかないまでも軽く閉じられ、射るような目つきは微動だにしない。
「・・・何」
外ではなかなか見られない、真正面に覗く表情。
金縛りにあったかのように動かない体に、ちりん、ちりんと風鈴が音を届けた。
居心地の悪さに少し身じろぐと「袋」、と兄が本日3言目となる言葉を口にした。
ややあって神楽は今の言葉が、今自分が手にしている、帰りがけに立ち寄ったコンビニの袋を指しているのだと理解する。
文法を一から習って来い、という音を圧し留め代わりに「あぁ、これ」と言いながらテーブルの上に中身を出した。
転がり出てきたのは2種類のアイス。
比較的、寮の近くで買ってきたはずなのだがパッケージには予想よりも随分と水滴が付いていて、溶けてるかもしれない、と頭の隅でぼんやり思う。
それを暫く目に留めていた兄はするすると手を伸ばし、しかしそれはアイスの上を通過して神楽の首元へ。
「っ!?」
「こーんな跡つけてどうしたの? 蚊にでも刺された?」
「そ、そうアル!夏、だし」
指摘されたものに必死に取り繕えばそうするほど、目の前の兄の顔は不気味なほどの笑みを形作っていく。
あながち、蚊に刺されたというのは嘘ではないのだ。
その上から沖田が口を寄せただけで。
「ふーん?」と言う兄は恐らく、いや絶対に信じてなどいないだろう。
べろり、と生暖かいものが首元を這い、神楽の肩が可哀想なほどに上がる。
それを嬉しそうに細めた目で確認すると、兄はテーブルの上に乗り上げた。
溶けていくアイスも、風に揺らぐ風鈴も、今は意識の向こう。
モドル
アトガキ*
私の中の神威兄さん設定(3z)
・大学生
・阿伏兎とルームシェア(というか阿伏兎ん家に上がりこんだ)
・神楽がいないときはどうしようもない人
・そうやって神楽に世話を焼くのを待ってれば良い
だけど、銀さん先生から神楽の宿題指導係りを受けた沖田の計らいで神楽はあんまり家にいません←
蚊の跡は、沖田も同じ勘違いをしています\(^p^)/
っていうか、神威兄さんって大学行ったり(あぁ見えて頭良かったりすると萌えます、私が)、
バイトしてたりするんだろうか・・・・。