いつか訪れる日を僕はまだ怖がっている



地球温暖化だかなんだかで昔より幾分と暖かい冬を迎えた今年も、週末にはお天気お姉さんの予報通りに雪が降った。
灰色の空から舞い落ちてくるそれは街を薄っすらと白く染め上げ、万事屋に向かう途中の、まだキレイな小路は 足跡をつけたいような、つけたくないような気持ちにさせた。


おはようございます、と挨拶をしてから仕事場へ入ると2人は寝ているのだろうか、部屋の中は妙に静かで冷えていた。
エアコンなんてものは当然のようになく、ならばせめて、と新八は鍋に火をかけた。
ご飯も炊け、台所に味噌のにおいがふんわりとしてきた頃に、台所の入り口に気配を感じ振り返ると、 まだ眠そうな顔をした定春がちょこんと座っていた。


おはよう、定春


ふわふわとした毛の覆う顔に埋められた大きな眼に自身の眼をあわせて言えば、ワンと一声返ってきた。
最初の頃に比べると随分と大人しくなったもんだと思いながら(未だに噛まれることはあるが)、「もう少し待っていてね」 と冬に向けてのびた長い毛に手を埋めて撫でる。
今度は先ほどよりも少し大きな声が返ってきた。


箸を並べ、茶碗を置き、準備は完了。
湯気の立つそれらに満足して、新八は2人を起こしにかかった。
2人とも起きてください、いつまで寝てんスか。
押入れと寝室のふすまを、スパンスパンと開けていく。
しかし、そこには丸まって寝る少女も、寒い中にも関わらず妙に布団を肌蹴させて寝そべる男の姿もなかった。


はて、この寒い中2人はどこに消えたのだろう


さすがにそこには居ないだろう、と思われる箇所まで探したが二人はいなくて、ふと玄関に足を向けると二人の よく履いている靴がなかった。
いつも必ず履いているくつではないのだから、もしくは珍しく片付けたのだろうか、と来た時にはその程度にしか 思わなかったが、調べてみるとその靴たちだけがない。


ここに訪れたときには万事屋の近くには誰もいなかったような気がしていたけれど、窓から見れば居たりするのだろうか。
そう思い、玄関に背を向けて自分の雇い主の寝室の窓を開けた。
冷たい空気に一瞬身をすくめ、寒い、なんて今更のことを思う。
窓から身を乗り出しても、下には彼ららしい人影は見当たらなかった。
その代わり、玄関の開く音がした。


新八ィ〜!


高めのソプラノが響く。今までが嘘のように室内が明るくなった気がした。
軽い足音が廊下を蹴り、その後ろを気だるそうな足音が続く。
何処に行ってたんですか、首を声の方へ動かしたが顔に勢い良く何かを当てられ、 その言葉が最後まで発せられることはなかった。
突然のことに新八は暫く立ち尽くし、ややあって、顔に当たったものを払いのけるとそれは真白な雪であった。
目の前では桃色の髪を持つ少女が、当たったアルー!と腹を抱えて笑い、その後ろでは銀髪の男が腕を組みながら 襖に寄りかかって立っていた。
その顔にはどことなく優しげな笑みなんて浮かべているものだから、何処に行ってたんですかアンタら、と言うのが やっとだった。


「何処って、公園」


しれっと返答した男に聞き返す声が裏返ってしまったのはきっと仕方ない。
神楽に無理矢理つき合わされてよぉ、男はそう言いながら片手で肩をほぐした。
何ヨ、銀ちゃんだってノリノリだったくせに、と文句をたれる少女に、公園で何をしてたの?と聞くと答えらしい 答えも言われずに急に、こっちこっちと腕を引かれた。
行き着いた先は万事屋の玄関の先で、階段に続く手摺には大小様々な、少し形のいびつな雪兎が4つ並んでいた。


万事屋アル


私と、銀ちゃんと、新八と、定春。
少女の白く細い指が、寄り添うように並んだ雪兎の右から左へ移動した。
雪はまだひらひらと降り続けていて、積もるだろうかとうっすら思う。
積もれば良いと思うのは何を願ってのことだろう。
腹減ったから飯にしよう、と背後で男がまとまりのない髪を掻きながら言った。


湯気はもう立っていなくて、少し冷えた味噌汁を胃へ流し込みながら見たテレビでは、天気予報のお姉さんが 「明日は今日よりも暖かい天気になるでしょう」と微笑を浮かべて言っていた。
雪も溶けるかもな、目の前の男が独り言のように言の葉をこぼした。


こっそりと、まだしばらくは溶けないでいて欲しいと思う。
雪の万事屋が溶けてなくなるのが、少し、寂しかった。



万事屋に居た頃を懐かしく思う日が、いつか訪れるだろう
でも今は、その思い出を作っていく日々にしていたいと思う。

たとえそれが我侭だとしても、そう願ってしまうのは仕方ないだろう?
だって、ここが大好きなんだから。






新八視点、万事屋。
ちなみに銀さんはネオアームストロング サシクロンジェット アームストロング砲を 造っていたという裏設定。


モドル