トンネルの向こう
落とし穴
故意の行為を恋といいます
残り30秒
来週の日曜日に
いとしいひと
今はこれが限界
彼女のとなり
君に続く道標ひとつ
奪うよりも先に奪われた
トンネルの向こう
あれは桜などとうに散った五月晴れの頃だったろうか
父親の仕事の都合上、神楽はよく坂田家に預けられていた。
まだ幼い神楽を銀時は色々な所に遊びに連れて行ってくれた。
それは、その中のひとつだったように思う。
「銀ちゃん、このトンネルは何処に続いてるアル?」
銀時の、神楽よりも幾程も大きな手に引かれながら、 神楽は道行く途中に眼に留まった木漏れ日の向こうのトンネルを指差した。 トンネルの入り口の煉瓦には苔がびっしりと生えているのが、 何メートルか離れたここからでも確認ができた。
眼をこらしても真っ暗な闇が見えるだけで、 トンネルの向こうの先は確認できない。
(どれほど長いトンネルなんだろう・・・)
行ってみたいと興味が沸く
期待に満ちた顔で神楽は銀時を見上げると、 銀時は眉を顰め口を開いた。
「ばっか、オメーあれだぞ、トンネルの向こうにはペドロがいんだぞ!」
「マジでか!私、ペドロに会いたいアル!」
冷や汗をかきながら言う銀時の言葉に神楽はより一層眼を輝かせた。
自分の言葉が逆効果になったことに、肩を落としつつ 先を行こうと神楽の手を引っ張る。
「ねぇ、銀ちゃん!」
「やめとけって、ピンク頭のガキには見えねぇらしいから!」
「マジでか!」
どうしても行きたがらない銀時の様子に、神楽も渋々諦めた。
だんだんと遠のくトンネルを背に、神楽は 今度トンネルの向こうに行こうと密かに決心した。
神楽5歳、銀さん10歳くらい。
続・・・いたらいいなぁ(弱気)
落とし穴
「旦那たちじゃねぇですかィ。 とうとう追い出されて、こんな所に住んでるんですかィ? 地面掘っても、強制撤去されやすぜ」
「お、総一朗くんじゃないの。
てゆうか、違うからね。これ、住むために掘ったんじゃないからね。 どっかのガキが掘った落とし穴に嵌った神楽と定春を助けようとして 落ちちゃっただけだからね。」
「旦那、総悟です。 じゃぁ、優しいお巡りさんが助けてやりまさァ、条件付きで。 ここはどうです、土方さん抹消とチャイナを俺に献上するってのは」
「オイィィィィイ!! どこが優しいお巡りさん!? 優しいどころか、とんでもないものを条件に出してきてんですけど!」
「ふざけんなヨ、コノヤロー! 定春と酢昆布1年分もなきゃ嫌アル!」
「ちょっとおおお! 神楽ちゃん、何とんでもない交渉に乗り出してんの!? 自分で何言ってるか分かってる!?」
「大丈夫だよ、ぱっつぁん。
神楽も定春も取られちまうが、代わりに糖分もらうから」
「お前の頭が大丈夫かコノヤロオオオッ!!っていうか、助けて貰うのと引き換えに神楽ちゃん差し出してる んですよっ!? 解ってますか!?」
「じゃぁ、成立ってことで。 旦那方、こんな落とし穴に嵌ってくれやしてありがとうございまさァ。 土方コノヤローを陥れるためのものが以外なところで役に立ちやした。 今、縄を持って来るんで待っててくだせェ」
黒い笑みを浮かべた一番隊隊長の軽い足跡はすぐに聞こえなくなった。
待て、と見上げた空は青く高く、こんなにウザい空は初めてだと、銀時は舌打ちした。
万屋+沖田。
故意の行為を恋と言います
新学期が始まって数ヶ月が過ぎ、季節が初夏を迎えようかという頃。
空には厚い雲が覆い、湿気の篭る教室には窓から舞い込んだ風が何年も使いまわしされているカーテンを揺らしていた。
思い思いに昼休みを過ごす生徒たちを見渡した神楽の前にふっと影が落ちたかと思うと、案外に大きな手がまっすぐに伸びてくる。神楽は肩がビクリと強張るのを感じた。厚い硝子を通して見ていた世界がすっと遠のいていく。
なっ!?
クリアになった視界に瓶底眼鏡をぶらぶらとさせる沖田が映る。
無表情な顔を浮かべたまま、じっと向けられる視線に耐え切れず神楽は眼鏡を取り返そうと腕を伸ばす。
こんな奴に取られるなんて不覚だ!
しかし、悲しいかな。リーチの差でなかなか取り返せない。
傍から見ていた土方が「本当はおまえら仲良いだろ!」と言う。
ふざけるな誰がこんな奴と。
「か、返せヨ!!」
そう叫んでも、いくら腕を伸ばせど15センチの身長差が邪魔をする。
時折見せる意地悪な笑顔がウザイ。しかし、取り返そうと躍起になっていたものがふと沖田の手から消えた。
「?」
「はい、神楽ちゃん」
ニコニコと笑顔で眼鏡を差し出してきたのは山崎だった。
チッと沖田から舌打ちが聞こえた気もするがそれを無視して山崎に礼を言う。
眼鏡をかけ、いつもの視界に安堵した神楽の口元に緩い弧が描かれる。
「神楽ちゃん、どうせ眼鏡掛けるんだったらもっと薄いレンズのにすればいいのに。可愛い顔してるのにもったいないよ」
「・・・へ?」
ニコニコともヘラヘラとも取れる笑顔で続けて言う山崎の台詞に神楽は思わず目を見開いた。
一気に顔に熱が集中する感覚を覚える。素直すぎる言葉は反則だ。
ガタンッ
突如、教室に鳴り響いた音源を辿ると神楽の前の席・・・・山崎の机が倒れていた。
「山崎のくせにチャイナ娘落とすなんて趣味が悪ぃや、って土方さんが蹴り飛ばしてたぜィ」
ちょ、俺ええええええ!?という土方の叫びを無視する沖田の顔には当然のように悪びれた様子など微塵もない。
けれど、確かに伝わる沖田の不機嫌の雰囲気に神楽は首をかしげる。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
沖→神←山
タイトルは コチラよりお借りしました。
残り30秒
最寄り駅から電車でみっつめの駅。
地元でないのに歩き慣れた道を
手にコンビニの袋ぶらさげて、
目的地に向う歩調は自然と早くなる。
ボロいアパートが見えてくれば、それはもっと早く、
(だってアイスが溶けるから!)
(断じて相手を想ってとか、そんな理由ではない!)
ツンデレ沖田。
タイトルはコチラから
来週の日曜日に
「暑いアル―――・・・」
沖田が訪れた先で兎はダレていた。
ローテーブルに転がる買ってきたアイスの殻が首を振る扇風機に揺れている。
窓を全開にした小さな部屋の中で目の前の女は大の字だ。
信頼されていると言えばそれまでだが、恐らく男として思われてないんだろう、という結論の方が納得がいく。
ぱたぱたと沖田が扇ぐ団扇の音だけが部屋に通る。
団扇で扇いだところで和らぐ暑さなどたかが知れているというのに、神楽は一向にエアコンをつける気配がない。
何故つけないんだ、と訊けば「電気代が掛かるから」と簡潔に返答された。
「おきた」
ぱたぱたの音にソプラノの音が被さって、赤い色と蒼い色がぶつかる。
な、に
掠れた声に兎は一度だけ瞬くと目を逸らし、蒼い目を瞼のしたにしまった。
「カキ氷とか、ヤキソバとか食べたいアル」
「・・・何が言いたいんでィ」
「浴衣姿見せてあげても良いアルヨ」
あ――・・・と、だるそうな声をあげて、沖田は頬を掻いた。
いつの間にか蒼い目がこちらを見上げている。
「祭・・・一緒に行くかィ」
「ウン!!」
約束ヨ、と神楽は白い小さな手の小指だけを立たせて沖田に向けた。
絡めた指の細さに眩暈を覚えた夏の初め。
「残り30秒」の続き物。
タイトルはコチラより。
いとしいひと
ある日の夕方、神楽ちゃんが目を腫らして帰ってきた。
驚愕して、どうしたのと訊けば「何でもないアル!」と強気な口調が返って来るので思わず僕は苦笑する。
何か、あったのは確かだが神楽ちゃんから何も言ってこないので此方からもこれ以上は何も訊かない。
「とりあえず、手を洗ってきて。もうすぐで夕飯だから手伝ってね」
少し乱れた桜色の頭にぽんぽんと軽く手を置いて言うと、神楽ちゃんはこくりと首を縦に振り洗面所へと消えていった。
「何があったんでしょうね、神楽ちゃん」
「さぁな・・・沖田くんと何かあったんじゃねぇの」
手伝いもせずに机に足を乗せて足の爪を切っている銀さんに言葉を掛けると、少し拗ねたような声色を含んだ返事が返って来た。
(それは、まるで幼子が大切なものを取られたようなのに酷く似ている気がした)
「沖田さん、ですか」
胸の、どこかで、あぁやっぱりと納得し違うどこかは穴が開いたような少し寂しい感情が生まれる。
恐らく目の前の目の前の銀髪も同じような気持ちを抱いているのかもしれない。
そう思うと、何故か頬が緩んだ。
(でもどうか、今だけはまだ3人でいたいと願う)
ぱっつぁん視点万屋+沖神。
お題はコチラより
今はこれが限界
"本件は一枚につき二名様までご利用頂けます"
映画のタイトルが鮮やかに彩られたその裏に、小さく、けれど確かに刻まれていた。
真っ先に浮かぶ人物に沖田は静かに自嘲をこぼした。
暑さにやられたんだ、きっと
(もしくはニコチン土方コノヤローの紫煙か)
(いや、その両方か)
(どちらに、しても、)
見廻りを称し、足を急がせた。
眼鏡にも銀髪にも先を越されないように。
かぐら、
口にできないそれを思うたびに手に握った紙切れがぐしゃりと音をたてた。
(柄にもなく緊張しているんだ)
タイトルは コチラより
彼女のとなり
「ふ・・・・んっ、ちょ、何するネ!」
ドンと胸を押され神楽の唇から沖田のそれが離れた。
予想していたよりも弱々しい力に沖田は一抹の罪悪感を覚えたがそれも少しの間だった。
荒い息を整える彼女の顔は紅い。潤んだ瞳を奮わせるその表情は今にも泣きそうで。
しかし、沖田を罵倒することも泣き喚くこともせずに、神楽は万屋に踵を返してしまった。
公園に一人残された沖田は、はぁと深く深く息を吐く。
ただ漠然とする気持ちに、屯所に戻る気持ちも起きない。
次に神楽に会ったとき、自分はどう反応するだろう。
神楽はどう反応するだろう。
もう二度と目を合わすことも喧嘩をすることもなくなる気さえしてきた。
秋風の吹くようになった空はもう少しすると赤色を帯びるだろう。
出逢ってから数年の年月は二人の間を少しだけ近づけた。
けれど、彼女の小さな口が開けば二言目に出てくるのは必ずと言って良いほど銀髪の侍の名前だった。
だから、少しの間でも良い。
銀髪を忘れて欲しかった。
彼女の心を占める彼に適わなくとも、少しだけでも自分を意識して欲しかった。
「神楽・・・」
無理矢理に口付けた唇には今も妙に感覚が残り、目の奥にはその瞬間の神楽の顔が焼きついている。
そっと沖田の髪を浚う風がどこか優しかった。
「いとしいひと」のサイド。 沖田さんの傍にいると緊張して銀さんの話ばっかりする神楽に嫉妬する沖田さん。
お題はコチラより
ドサリと音がして、しなやかに伸びた白い腕の先から彼女の数少ない荷物が落ちた。
あぁ、ずるいなと思う。
相変わらずアルな、とか糖尿病になったのかとか、未だにアイドルおっかけしてんのか現実見ろヨとか、言いたいことはたくさんあって、たくさん頭の中でシュミレーションしたのに。
実際に目の前にすると何も言えなくなる。 言葉が喉につまって、息が詰まって、二人と一匹の姿がぼやけていく。
やがて、ボロボロと零れゆくそれは止まることを知らないように次々に頬を伝っていく。
会ったら、鼻で笑ってやるつもりだったのに台無しネ。
夢にまで、みたの。
昨日は眠れないくらいに
(それはまるで子供のように)、
今日を楽しみにしていたの。
ただいま
数年ぶりに帰ってきた瑠璃色の瞳を持つその女の子は、昔見ていた妹分のような相貌から、年相応の、いやそれ以上に大人びた女性となって僕らの前に再び現れた。
顔を合わした瞬間に泣き出す彼女を上司は頭を掻きながら「しゃーねぇな」と一言、言葉とは裏腹に優しさを含んだ声を溢して顔を覆う妹分を抱きしめる。
今日をずっと楽しみにしていた。
手紙を何度も何度も読み返して、印をつけた暦を何度も見返した。
一日千秋の思いで指折り返して待っていたよ。
おかえり
明日はきっと彼に独占されてしまうから、今日は水入らずゆっくりしよう。
さぁ、お土産話を聴かせて?
君に続く道標ひとつ
(あなたがいるから頑張れる)
好きだった。
白くて小さい彼女が。
銀ちゃん、銀ちゃん、と呼ばれるのが心地よかった。
(何度言っても、彼女が"先生"と呼ぶことはなかった)
横柄な態度の下に隠れた繊細な心を守ってやれる自信はあった。
(たとえ、それを何と呼ばれようとも)
あぁ、だけど。
彼女は自分以外の男に靡いていってしまった。
つまらない立場などに囚われていないでさっさと奪ってしまえば良かった。
そう思いながら吐き出した紫煙はゆらりと秋空に姿をみせ、やがて混ざっていった。
(彼女の嫌ったそれ)
ふと、下をみやれば初々しさを漂わせた二人の小さな後姿。
もう一度吐き出した紫煙の向こうに影が二つ並ぶこの光景を、
いつか見ることになるだろうなとは薄っすら予感はしていた。
銀ちゃん、銀ちゃん
聞いてヨ、あのね―――
なぜなら、
何故なら。
心地よくて好きだった自分を呼ぶ声が、自分の次に出すのは必ずと言っていいほど彼の名前だったから。
あぁ、ちくしょう、
奪うよりも先に奪われた
沖神←銀。