たったひとつの枯れない花よ


沖田総悟が瀕死の状態で戦地から還ってきたと、人伝に聞いたのは数週間前のことだ。
最初は信じてなど居なかった。信じられるはずなど、なかった。
きっと、あの憎たらしい笑みを浮かべて帰ってくるのだと、思っていた。


沖田の病室の萎れた花を、慣れた手つきで新しいのと取り替える。
いつまで、今の状態が続くのだろうか。
先ほど、廊下で会ったゴリラは憔悴しているように見えた。
(無理して、笑っていたけれど)

今日も真白なシーツに横たわるそいつは、ビクリとも動かない。
頬に大きく貼られたガーゼや、腕にぐるぐると巻かれた包帯が似合わないと思った。
何より、怖かった。


そうご


出会いから4年も経って、初めて呼ぶ名前は掠れた音になって外にでた。
包帯の先から少しだけ出された指は、酷くまっしろで血の気がないかのようだ。
ふと、3ヶ月前のことを思い出す。
喧嘩の後に、沖田が「好きみたいだ」と告白してきたのだ。
逃げ帰ってしまった挙句、数日間避けてしまい、未だに返事は返していない。
(その数日後に沖田は仕事に行ってしまった)

ぼろぼろと、熱いものが頬を流れた。


そうご、
目を開けて
私を見て
名前を呼んで

いつもみたいに、おまえはあの憎たらしい笑みを浮かべて
そして獲物を交えよう


言ったダロ
お前を倒すのは私アル
だから、早く目を覚ましてヨ

お前のいない世界は寂しいアル
喧嘩ばっかりだったけど、楽しかったアル


いつしか、今以上の関係を望むようになった。
やっと、やっと自分の気持ちを解ったのに。



「言い逃げ、してんじゃ、ないアル。
私だって・・・好きアル、コノヤロー」



沖田が私に言った時も、こんな気持ちだったのだろうか。

次から次へと流れ出るものを、せき止めることなど出来なかった。
やがてそれは、まっしろなシーツに灰色をつくる。
目尻をこすった掌にも透明はするりと伝い落ち、灰色はどんどん増えた。
なんで、こういう事態にならないと気づかないの。
居なくなるかも、と思った瞬間にとても怖くなった。
眠れない日もあったのだと、言ってやりたいのに。

やがて、溢れる想いに切りをつけるように神楽は、ふぅとため息をついた。


また、明日も来るアル


もう、帰らないと。
瞳に収まり切らなかった涙は見ないふり。
(きっと、銀ちゃんや新八は気づいてしまうのだろうけれど)
小さな深呼吸をして、握っていた指を離そうとした。

きゅぅ

「! おき、た?」


気のせい、だろうか。
そっと触れるように握っていた指が、微かに力を帯びたように感じた。
どんな僅かな動きさえも見逃さないかのように、神楽の目が大きく開かれた。
色素の薄い髪の毛の間から、琥珀色の瞳が少しずつ開かれていく。
何回かの瞬きのあとに、琥珀色が神楽の姿をしっかりとその中に入れた。


「チャイ・・・ナ・・・?」


神楽が初めて沖田の名前を呼んだときと同じくらいに、沖田は掠れた声を発した。
酸素マスクが沖田が口を開く度に、白く濁る。
うんうん、と神楽は首を振った。(そうすることしか、出来ない子供のように)

沖田は布団の下にしまわれていた、包帯の巻かれていない腕で酸素マスクを外す。
痛々しさが尾を引くその動作に神楽は、はっとして、先生を呼んでくるアルと握っていた手を離した。
しかし、向けようとしていた重心とは反対方向に腕を寄せられ、簡単に振りほどける程の力が
神楽を沖田に覆いかぶさるようにダイブさせた。
ぶふっという、神楽の声に沖田が笑ったような気がするのも、背中に回された腕も神楽はどこか他人事のように感じた。


かぐら、と沖田の息が耳に掛かる。


おはよう
まずは何から離そうか。


たったひとつの枯れない花よ




お前に泣かれては、おちおち寝てもいられない
起きるから、もう泣き止んで
でも泣いてくれてありがとう







モドル


「I can't stop my love for you」(愛/内り/な)をテーマに。
後半、動きが多すぎました/(^O^)\
タイトルは ユグドラシルさまの 「夢人と祈り人で10のお題」より



モドル