「ねぇ、阿伏兎ー」
「何デスカ、団長」
にこにこと気味の悪い笑みを浮かべた神威が不意に部下の名前を呼び、抑圧の無い声が部屋に消える。
いつの間にか神威の目は開いていた。
(しかし、口許に笑みは残したまま)
「妹が・・・神楽が、昔みたいに『兄ちゃん、兄ちゃん』って呼んでくれなくて、呼び捨てになったんだよね」
あんなに泣き虫で俺の後ばっか追いかけてたのにね
ケタケタと笑う声が続ける。ついこの前まで身内の話など、一切口に出さなかったというのに。
吉原の変は団長に色々と変化を与えたようだ。(相変わらず仕事はしてくれないが)
「そうかい」と右腕の半分の長さもなくなった方の肩を解して適当に相槌をうつ。
髪色も、瞳の色も、顔立ちも良く似ているというのに、根本的なところで噛み合ってない二人の過去など
阿伏兎は知りもしない。
「俺の攻撃を受けても生きてたし、阿伏兎の耳を持ってくぐらいには成長したみたいだね。
他にもイロイロ成長してたし、将来(さき)が楽しみだと思わないか?
あのお侍さんはともかく、神楽は基より俺のモノだよ。誰も手出ししてなかったろうね?」
にっこり
そんな効果音が聞こえてきそうな笑みを貼り付けて神威は阿伏兎を見据えた。
神威の下らない思考回路につき合わされ、団長命令という名のもと地球に偵察に行って帰ってきてから
まだそんなに時間は経っていない。
「栗色の頭をした地球人がちょっかいを出していた以外はなぁにも」
「栗色の?誰それ?もちろん、殺ってきただろうね?」
「やめてくれ、団長。そいつを殺したら俺らを殺すって、団長の妹サン直々に言われてんだ。あと、伝言」
その捻じ曲がった性格叩き直してやるから、大人しく待ってろってさ。
それを聞くと、神威は再びケラケラと笑った。
その度に頭頂部に一本跳ね上がった髪の毛が揺れる。
よく似た形(なり)をして、ここまで性格の異なった兄妹の片方は漸く笑いを抑え「楽しみじゃないか」と言の葉を
こぼした。
目はしっかりと開いているというのに、きっとそこには此処ではない風景を映しているのだろう。
「じゃぁ、まぁ、楽しみが出来たところで元老(うえ)からの書類に目ェ通して下せぇよ。
どれだけ溜まってると思ってるんだこのスットコドッコイ」
幾重にも重なった書類を神威の目の前に持ち出すと、先程まで開いていた目は白い瞼の下にしまわれる。
あぁ、ダメだ。 今までの経験が阿伏兎の脳に諦めを帯びさせた。
仕事なんてしてくれないのは何時ものこと。
すくっと立ち上がった上司はそのままスタスタと部屋を出ようとする。
彼の裸足が奏でる足音がやけに非情なものとして阿伏兎の鼓膜を振るわした。
「そんなの部下の仕事でしょ、阿伏兎。俺はちょっと神楽に会ってくるから後頼んだよ」
「・・・・その捻じ曲がった性格も結構だがよ、たまにゃ兄貴面してやんねぇと、そのうち相手にも
されなくなるぜ、団長さんよ」
「えー、でももう神楽の周りにはツンデレもドエスも居るんでしょ?
だったら俺は鬼畜を極めるしかないじゃない」
それに神楽が嫌って言っても俺は諦めないし
振り向き際にそう言う神威に、阿伏兎は溜息をついて見送った。
残されたのは静かな空間と、大量の書類。
器用に腕まくりをすると、阿伏兎は筆をとり書類の片付けに取り掛かった。
急いで終わらせるとしよう、未来の海賊王のために
この想いを伝える言葉が見つかりません
悪いなお嬢さん。
団長はきっと戦う術しか知らねぇんだ
(だから振り向いてやってくれ)
尊敬して止まないサイト様の感想を拝読して、思い立ったままに。
あと「ドエスが周りにいるから鬼畜にまわるんじゃないか」的な言葉を兄ちゃんに言わせたかっただけです←
お題は
ユグドラシル様より。
モドル