0906拍手*沖神


日本の梅雨という時期は故郷を思い出してならない。


パピーが出て行った
兄ちゃんも出て行った
マミーが死んだ

家族を看取ってきたような、その星。


汚い路地の途中にある、家を出てすぐの階段はその辺境の地に申し訳程度に建てられたターミナルに続く、何本もある道のうちのひとつ。
いつ帰るかも知れない父兄をいつもそこで待っていた。



(だから。ここに居るのかも)


仄かな期待は裏切られ、諦めの感情を抱くようになったのは何時からだったろう。
落胆の情を数えるのを止めたのは何歳だったろう。
それが、数え切れない程の数になってからなのか、指を十折らないうちに諦めたのかさえも、もう曖昧。

それでも、足音が近づく度にドキドキした。





神社の鳥居の下、長く長く連なる階段の1番上で、神楽は方を濡らして座っていた。
彼女を探していた沖田が傘を差し出したときには既に、しっとりと濡れた服が神楽の体のラインをくっきりと現していた。


「心配した」
「ウン」
「傘ぐらいちゃんと差しとけィ」
「ウン」



頭上に差し出された傘を仰ぎ見ることも、沖田へ顔を向けることもしない彼女の瞳はまだ灰色を見つめ続けたまま。
心配して駆けずり回ったのに、当の本人の淡々とした返事に沖田はその形の良い眉をうんと顰める。
無駄に、と言っておきたくなるほど、今日の神楽はしおらしい。


「そーご・・・・・ごめん、あと・・・ありがと、アル」
「・・・ん」



不意に神楽が小さく溢した声に、返そうとした言葉は喉の奥でつっかえた。
雨音が紫陽花の葉を叩く音よりも、無遠慮に傘を叩く音よりもはっきりと彼女の笑う声が沖田の鼓膜を揺らす。
なのに、自分に背を向けて蹲る様に座る彼女の顔を伺うことが出来ない。
顔を見たい。
顔を見たい。



「同じ景色なのにネ、やっぱりお前が来ると違う風に見えるヨ」
「、そうかィ」
「ウン」



黴臭く、陰気に囲まれた故郷の一角もそうだった。
ふらりと帰ってくる父親の大きな手に繋がれて歩いた道は、とても優しいものに見えた。

「兄ちゃんもそういうの知ってるかナ」


彼女が目線を上げた先には拗ねたような紅い目。
それに少しだけ苦笑して、神楽はふんわりと笑みを携えて腕を彼のもとへ伸ばす。

ねぇ拗ねないで。
だってこう言えるのは、この星で私がそれを教えてもらった証拠なんだから。

ねぇ、拗ねないで。
聴いて欲しいヨ。

「この前の返事です。
この星でまた家族に望みを掛けさせて」

信じたいの。家族というものを。


そして、雨足は拍手に変わる。


01/ モドル