世界の端でオペレッタを #00
風が肌寒いなんて生暖かいものではなく、突き刺すような痛みにも似た冷たさを伴ってきた頃の夕暮れ。
季節が完全に冬に移行した空に広がる、黒と赤のグラデーションの下、昇降口の外。
沖田は姉に「遅くなる」とメールし、一息ついた。
闇に白く出たそれに、外気温を感じ「寒ィ」とごちる。
まだ、帰れるまでに時間は掛かるのだろうか。
* * *
『沖田・・・っ!』
高校の3年になってクラスの別れてしまった幼馴染の神楽が、廊下を行く沖田を捕まえたのは昼休みも 終わろうとする時だった。
外と大して気温の変わらないのではないかと思われる校内の寒さに神楽の頬は自然と赤くなり色々と心臓に悪かった。
彼女の後ろにさりげなくついて来た見覚えのある、記憶に新しい男を一瞥して、すぐに瑠璃色に眼を移す。
『何?』
『今日、委員会で一緒に帰れないアル。だから先に帰っててヨ』
放任主義だとか、生徒の自主性やらを育むとかなんとか言っている銀魂高校において先生の役割は皆無に等しいと 言っても過言ではない。
故に、生徒が先立って行動しなければならないため、引退やら引継ぎのある今の時期、 部活や委員会は多忙を極めていた。
運動委員に入っている神楽もその一人である。
すれ違う時間が増え、昔のように登下校を共にする機会の減ったことを寂しいだなんて口にだすことはしないけれど。
短い返事をしようとして、逡巡。
返事の代わりに細い腕を捕まえること長く感じた数秒。
ビクリと一瞬、その小さな肩を強張らせて見上げてくる瑠璃色に高揚する気持ちを抑え付けて、沖田は口を開く。
(そうだ。今、その瑠璃色には自分しか映っていない)
(そして、自分の瞳にも同様)
(だけどそれだけじゃ足りない!)
『俺も』
『ウン』
『今日、部活あるから適当に待ってる』
『お、おうヨ!』
一瞬、眼を更に大きく見開いたかと思うとすぐにニカッと笑った神楽にゆるく笑みを返して。
互いに軽く手を振って、背を向ける。
そのまま、誰も刺激を与えなかったなら、静かな波であったのに。
分かれた後の、背後で交わされる彼女らの会話だとかがやけに耳について、それは不快な波紋として広がっていく。 気持ち悪い。
二人ずっと一緒だなんて、漠然とした、けれど確信にも似た子供の頃描いた未来像が壊れていくようだと密かに思う。
この気持ちに気づいたときには存在があまりにも近すぎて、口に出せないままずっと過ごしてきたけれど。
『なぁ総悟、知ってるか』
『あの最近、チャイナと一緒にいる人』
『好きなんだって、チャイナのこと』
脳に反芻する近藤と土方の持ってきた噂。
そんなの、とうに知っていた。
あの時の、あの眼を見れば、嫌でも解る。
眼が、言っていたから。
『アイツは鈍いから、言わないと気づかないし、』
『言わないと伝わらないこともあるんだよ』
知っている。
だから。
精一杯の勇気を
今日君に送るから
やっぱり、待っている
モドル/ #01